研究概要 |
本年度の課題は,多目的に応用できる,ピロール環に直結する光学活性スルホキシドを設計することによって,スルホキシドの不斉反応で困難であった,1)不斉補助基の効果的回収と2)遠隔位不斉誘導を,有機合成の有用な多くの不斉付加反応において実現することにある.さらに,これらで得られる知見をもとにスルホキシドを用いる触媒反応へと展開させることにある. 光学活性ピロールスルホキシドからピロール環窒素原子上にα,β-不飽和カルボニル基をもつクロトノイル,(E)-シンナモイルおよび(E)-2-ペンテノイル誘導体を合成した.その二重結合部への不斉付加反応を検討した.この光学活性ピロールスルホキシドの付加反応では,有機金属試薬やルイス酸金属による強固なキレーションがもたらす反応ジアステレオ面の立体制御を計画しており,以下の知見を得た. シクロペンタジエンと環化付加(ディールス・アルダー)反応では,反応は高ジアステレオ選択的に進行し,一方のエンド付加体のみが優先的に得られることが分かった.反応ポロモータとしては,イオン半径の大きいランタノイド元素類が有効であり,なかでも高いルイス酸性をもつランタノイドトリフラートがよいことが分かった.得られた付加体は,反応後,アルコラートの作用により,不斉補助基を直接回収することに成功した.このことは,複素5員環をもつ本スルホキシドを設計することによって,1)従来,特殊な基質を用いないと困難と考えられてきたスルホキシドの遠隔位不斉誘導が達成可能であること,2)スルフィニル不斉補助基の回収が可能であること,を実証したことになる. なお,本課題に関連する研究として,光学活性スルホキシドとしてフラン環を用いた遠隔位不斉誘導(=不斉向山アルドール反応)では,ピラノン環天然物合成への応用を計画し,(+)-ジヒドロカワイン-5-オールの不斉全合成に成功した.
|