研究概要 |
ブタ肝臓をヒトに移植する上で最も問題となる超急性拒絶反応は、ブタ肝細胞のGalα(1,3)Gal糖鎖抗原とレシピエントの抗体との過剰免疫応答により発症する。そこでこれを回避する新医療素材の開発を目標に、「冬虫夏草」から単離されたセラミド系免疫抑制剤mycestericin D, Fの合成と、上記糖鎖抗原を生合成するα1,3-ガラクトース転移酵素に対する阻害剤の合成を行なった。 まず、mycestericinの合成においては、γ-ベンジルオキシブタナールとグリシンとをL-スレオニンアルドラーゼの触媒作用を利用してβ-ヒドロキシ-α-L-アミノ酸を調製し、本アミノ酸のメチルエステルをメチルベンズイミデートと反応させ、オキサゾリン化合物へと誘導した後、これにDBU/ホルムアルデヒドを反応させてα-位にC-1ユニットを導入した。最後に側鎖ベンジルエーテルをアルデヒド基に変換し、続いてWittig反応と脱保護を行って10工程で全合成を達成した。 次に、α1,3-ガラクトース転移酵素の阻害剤の合成においては、基質であるUDP-ガラクトースの類似体を阻害剤として設計した。L-スレオニンアルドラーゼを利用してウラシル(U)を側鎖に持つβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸を調製し、本アミノ酸のベンジルエステルと2-(1-O-α-ガラクトシル)ヒドロキシ酢酸とをDCC/HOBtで縮合させ、続く脱保護によりペプチド様UDP-ガラクトースの合成に成功した。 以上、著者らが開発したL-スレオニンアルドラーゼによる酵素的アルドール縮合を利用して「ブタからの肝臓移植を可能にする薬物およびそのリード化合物」の簡易合成に成功した。
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