研究概要 |
フッ素-シアノ基間の新規空間的相互作用の解明と直鎖化合物の立体配座の固定化による立体選択的反応への活用を目指して検討し、以下の研究成果を得た。(投稿準備中) 1)1-Cyano-3-fluoro-(4-hydroxypheny1)nonaneのsyn体およびanti体を合成し、単結晶のX-線構造解析を行なった結果、anti体は予想どおりフッ素とシアノ基炭素との間で擬5員環を結ぶ様に立体配座が固定化されており(其の二面角は8.5°)、その空間距離は2.888Åでありvan der Waals半径の和(3,17Å)よりも短く、フッ素-シアノ基間の新規空間的軌道相互作用(n_0→π^*)の存在が確認できた。一方、syn体はフッ素-シアノ基間の二面角は118.6°であり擬5員環を形成していなかったが、この原因はフェノール水酸基とシアノ基窒素原子間で分子間水素結合が強く働くためであることがパッキングの分子配列から判明した。 2)1-Cyano-3-fluoro-1-(4-methoxylpheny1)nonaneのsyn/anti=約1/1の混合物にブチルリチウムを作用させ、シアノ基のα-位のアニオンを発生させ、安息香酸によるプロトン化反応を検討した結果、HMPAを5当量添加した時、syn/anti=3.5/lの立体選択性(1,3-不斉誘導)が発現した。5員環を形成している対応γ-ラクトンを用いたコントロール実験の結果と対比すると、此の事実はリチウムカチオンフリーのシアノ基アニオンのシアノ基炭素とフッ素間の上記新規空間的軌道相互作用が溶液中でも発現した結果と解釈できる。従って、直鎖アルキル基の立体配座の固定化の新しい方法論を提供できたと云える。
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