研究概要 |
直鎖の脂肪族化合物のコンフォメーションを制御する一つの新しい考え方の確立を目指して、フッ素基とシアノ基の官能基間の新規空間的軌道相互作用の研究を行い、以下の成果を得た。 1)フッ素基とシアノ基炭素間の空間距離はそれら原子のvan der Waals半径の和より短く、明らかに軌道の相互作用(n_F→π^*空間的相互作用であると考えられる)が存在する。これは水素結合のように強い相互作用ではなく、弱い相互作用である。 2)n_F→π^*空間的相互作用は大きくはnucleophile-electrophile interactionに分類できるものであるが、Dunitzらのnaphthalene骨格の1,8位に固定化された官能基間ではなく、自由度の高い脂肪族化合物のl,3位に大きな双極子モーメントを持つ二つの官能基が配置された系において、その立体配座をより大きな双極子モーメントを持つ立体配座に固定化できる。 3)この相互作用は脂肪族fluoro nitrileの立体選択的なプロトン化反応に適用することができることを示し、共有結合の半分程度の選択性を発現することを明らかにした。従ってこの相互作用は反応の立体選択性を制御する新しい要因となりうる。 4)上記フッ素基とシアノ基炭素間の空間的相互作用は酸素-カルボニル炭素間の新規相互作用(n_O→π^*空間的相互作用)に拡張することができ、この相互作用はアレンカルボン酸エステルとN-アルコキシカルボニルピロールのDiels-Alder反応において選択性を制御する通常のAlder則のHOMO-LUMO軌道二次相互作用よりも優位に働き、Diels-Alder反応におけるendo/exo選択性を制御する新しい要素になりうることを見出した。 これらの新知見は有機化学の基礎知見として重要であると考えている。
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