研究概要 |
報告者らは,1997年インドやスリランカの伝承医学であるアーユル・ヴェーダで,糖尿病の治療に用いられている天然薬物Kotala himbutu(Salacia reticulata)の抽出エキスから,強力なα-glucosidase阻害作用を示す成分,salacinol(1)[Tetrahedron Lett,8367(1997)]を単離し,絶対構造を含めたその新奇なスルホニウム硫酸分子内塩構造を明らかにしている.本研究では,1のα-glucosidase阻害活性についての構造活性相関を検討するために,1の硫黄を窒素に変換したアザ類縁体2とその類縁体を合成し,それらのα-glucosidase阻害活性を検定した. 2の部分構造を成すアザ糖,1,4-dideoxy-1,4-imino-D-arabinitol(D-3)およびその側鎖部の導入に必要な2,4-O-isopropylidene-L-erythritol-1,3-cyclic sulfate(4)をいずれもD-glucose(5)から効率に合成する方法を確立した.D-3と4のカップリングに先立ち,まずpyrrolidine(6)を用いた予備実験を行い,首尾よくカップリング生成物であるアンモニウム塩(7)を80%の収率で得た.7は1とは異なり,sulfate anion部がammonium cation部と分子内塩を形成していないことが単結晶X線構造解析により明らかになった.D-3および4の反応も効率よく進行し,目的物2を好収率で得た.一方,D-3のエナンチオマーL-3は,1に匹敵する強いα-glucosidase阻害活性を示すことが知られている・そこでL-3をD-xylose(8)から42%の収率で合成し,2,4-benzylidene-D-erythritol-1,3-cyclic sulfate(9)とのカップリング反応に付して,2のエナンチオマー(10)の合成も行なった.2および10のα-glucosidase阻害活性を検定した結果,1の硫黄の窒素への変換は阻害活性を低下させることが判明した.また,L-3から合成した10の阻害活性は,L-3に比べ,著しく低下することも明らかになった.
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