研究概要 |
「地衣菌によるトキシンの生合成経路は,天然の共生状態の地衣では共生藻にとって好ましくないため抑えられているが.地衣菌を単離培養すると発現してくる.従って地衣菌の単離培養は新たな薬用資源になりうる可能性がある」との仮説のもとに,各地で採集した地衣類から胞子由来の地衣菌を単離培養し,その成分検索を行った.フィリピンで採集した未同定のGraphis属の地衣菌培養からは,2種の新規isocoumarin類を単離し,その構造決定を行った.これら化合物はこれまでphytotoxinとして報告されている菌代謝物と構造的に類似しているが,天然の地衣類からはisocoumarin類は単離されておらず,地衣類や地衣菌の代謝物として単離したのは今回が最初の例である.また日本で採集したGraphis scriptaの地衣菌培養からは,3種の新規chromone類の単離・構造決定を行った.これまで地衣類から単離されたchromone類は2位にメチル基,5,7位に酸素官能基を共通に持つほか,6あるいは8位にアルキル基のあるものが知られているが,今回得られたものは3位にアルキル基を有するという構造上の特徴があった.また他の地衣菌株からも,lichesterinic acid関連のカルボン酸を得,現在構造を検討している.このように地衣菌を単離培養することにより,本来の地衣類とは異なる代謝経路が発現することが明らかであり,今後,代謝物に関して生物活性試験を行い,代謝物の生理的意義を調べるとともに,生合成経路や代謝の調節機構を調べることにより,地衣の進化の過程や共生に関して考察を加える予定である
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