研究概要 |
「地衣菌によるトキシンの生合成経路は,天然の共生状態の地衣では共生藻にとって好ましくないため抑えられているが,地衣菌を単離培養すると発現してくる.従って地衣菌の単離培養は新たな薬用資源になりうる可能性がある」との仮説のもとに,各地で採集した地衣類から胞子由来の地衣菌を単離培養し,その成分検索を行った.Ramalina属の地衣菌培養からは,ウスニン酸と共に新規アザフィロン誘導体を単離構造決定した.アザフィロン誘導体はこれまで地衣成分として単離されていないが,従来より菌代謝物としては知られており,Ramalina属の地衣菌培養においても菌と類似した代謝経路が発現することが明らかとなった.Graphis scriptaの地衣菌培養からは,3種の新規カルボン酸を得,その構造決定を行った.これらはこれまで天然地衣類より多数単離されているlichesterinic acid関連化合物のproto-typeと考えられる.また他のGraphis sp.の地衣菌培養からは,菌代謝物として報告されているジフェニルエーテル類を,またLecanoracinereocanereaの地衣菌培養からは,新たに2種の新規ジベンゾフラン類を単離,構造決定した.これらは地衣成分と比較すると,カルボキシル基を持たないという構造上の特徴があった.これは地衣成分生合成における共生藻の役割について述べたAhmadjianらの仮説に符合するものである.このように地衣菌を単離培養することにより,地衣類とは異なる,地衣菌本来の代謝経路が発現することが明らかであり,地衣の進化の過程や藻類との共生に関して,重要な知見が得られた.
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