研究概要 |
本年度は,架橋配位子の違いによるクラスター錯体の反応性の変化を明らかにすることを目的に,一つの炭素核と三つのコバルトカルボニル核から成るCo_3(CO)_9(μ^3-CR)クラスター錯体(R=H,Me,Ph,COOEt,Cl,Br),一つの硫黄核と三つのコバルトカルボニル核から成るCo_3(CO)_9(μ^3-S)クラスター錯体,二つのリン核と四つのコバルトカルボニル核から成るCo_4(CO)_8(μ^2-CO)(μ^4-PPh)クラスター錯体,および四つのコバルトカルボニル核から成るCo_4(CO)_<12>クラスター錯体の持つ有機反応性について比較検討した.基質として水素,アルキル基,アリール基,あるいはシリル基をアルキン上に有する1,6-heptadiyne誘導体を選び,触媒量のクラスター錯体の共存下,アルゴン雰囲気下あるいは一酸化炭素雰囲気下の反応を試みた.いずれのクラスター錯体を触媒として用いた場合にも,二つのアルキン部が共にアリール基もしくはシリル基を有する基質の反応ではシクロペンタジエノン誘導体が得られたが,Co_3(CO)_9(μ^3-CH)が最も高い触媒活性を示し,次いでCo_4(CO)_<12>,Co_3(CO)_9(μ^3-S),およびCo_4(CO)_8(μ^2-CO)(μ^4-PPh)の順で触媒活性の低下が見られた.また,アルキン末端部に水素あるいはアルキル基を有する場合には,アルゴン雰囲気下では置換ベンゼン誘導体が得られ,さらに一酸化炭素雰囲気下では四環性の連続環化反応成績体が得られたが,先の場合と同様に,クラスター錯体が示す触媒活性はCo_3(CO)_9(μ^3-CH)>Co_4(CO)_<12>>Co_3(CO)_9(μ^3-S)>Co_4(CO)_8(μ^2-CO)(μ^4-PPh)の順に低下することがわかった.反応終了後,Co_4(CO)_<12>は回収不可能であるが,他の炭素核あるいはヘテロ原子核を橋頭位に持つ錯体Co_3(CO)_9(μ^3-CH),Co_3(CO)_9(μ^3-S),およびCo_4(CO)_8(μ^2-CO)(μ^4-PPh)は回収可能であり,これらの錯体の熱的な安定性の違いが明確になった.架橋配位子の違いによる反応性の異差は,コバルト上の電子密度の違いに基因すると考えられ,赤外吸収スペクトルにおけるCOの吸収帯が長波長側に観測されるものほど高い反応性を示すことがわかった. 現在,一つの炭素核と三つの異なった遷移金属核を持つクラスター錯体を合成し,その有機反応性の探索研究を行っている.
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