研究概要 |
本年度は,金属核の違いによるクラスター錯体の反応性の変化を明らかにすることを目的に,一つの炭素核と三つの遷移金属核から成る四面体型クラスター錯体の合成と有機合成反応触媒としての利用に関して研究を行った.ベンジリジントリコバルトノナカルボニル錯体[Co_3(CO)_9(μ^3-CPh)]を原料として用い,金属核交換反応によって一つのコバルトカルボニル核をモリブデン,タングステン,およびニッケルに変換したCo_2(CO)_6(MoCpCO)(μ^3-CPh),Co_2(CO)_6(WCpCO)(μ^3-CPh),およびCo_2(CO)_6(NiCp)(μ^3-CPh),二つのコバルトカルボニル核を交換したCo(CO)_3(MoCpCO)_2(μ^3-CPh),Co(CO)_3(WCpCO)_2(μ^3-CPh),およびCo(CO)_3(NiCp)_2(μ^3-CPh)を各々合成した.次に,これらクラスター錯体を触媒として用い,一酸化炭素雰囲気下,1-hepten-6-yne誘導体を原料としたシクロペンテノン合成反応(Pauson-Khand反応)を検討した.各々のクラスター錯体の触媒回転率を比較すると,いずれの錯体も合成原料であるCo_3(CO)_9(μ^3-CPh)に比べて高い触媒回転率を示し,中でもモリブデン核を一つ有するCo_2(CO)_6(MoCpCO)(μ^3-CPh)が最も効率的な触媒として機能することがわかった.またCo_3(CO)_9(μ^3-CPh)は,アルキン類の環化三量化反応においてもPauson-Khand反応の場合と同程度の触媒効率を示したのに対し,このCo_2(CO)_6(MoCpCO)(μ^3-CPh)は,Pauson-Khand反応における触媒効率の方がアルキン類の環化三量化反応の場合よりも高いことがわかった.クラスターを構成する金属核を変えると,錯体の反応性も変化することが明らかになり,本研究を通して,望む反応を選択的かつ効率的に行うことができるオーダーメイド型有機合成反応触媒の開発に繋げられる貴重な知見が得られたと考えている.
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