研究概要 |
我々は、既に4,7位ジ置換ベンゾフラザン化合物の蛍光特性が、置換基のハメット定数を用いて予測可能であることを報告している。この予測法を用いれば、試薬自身は無蛍光で、分析対象物質と反応した後に蛍光を発する発蛍光試薬を容易に開発することができる。さらに、これら化合物の構造と蛍光特性の関係を理論的に明らかにするために、半経験的分子軌道法であるPM3法を用いてエネルギー準位を計算し、蛍光特性の関係を考察した結果、最低励起一重項状態と高位三重項状態のエネルギー差が大きいほど蛍光が強いことが明らかとなり、分子軌道計算から蛍光特性を予測することが可能となった。 今回、化合物の構造と蛍光特性の関係をより一般的に理解するために、4位置換ベンゾフラザン化合物の構造と蛍光特性の関係を検討した。その結果、4,7位ジ置換ベンゾフラザン化合物で得られたのと同様に最低励起一重項状態と高位三重項状態のエネルギー差が大きいほど蛍光が強いことが明らかとなった。また、ベンゾフラザン化合物と芳香族化合物を用いて、PET(Photo-induced electron transfer)といわれる電子移動による蛍光のon-offについても検討した。その結果、蛍光性を有するベンゾフラザン化合物のHOMOおよびLUMOと、添加した芳香族化合物のHOMO,LUMOにより、電子移動による蛍光の消光を予測できることを明らかにした。 以上の結果をもとに、アルコール基用発蛍光誘導体化試薬(PSBD-NCO)、カルボキシル基用発蛍光誘導体化試薬(AABD-SH)、ペプチド分析用水溶性ベンゾフラザン発蛍光試薬(ES-ABD-F)、ベンゾフラザン蛍光エドマン試薬(MTBD-NCS)を開発することができた。 このように、ベンゾフラザン骨格を有する化合物の構造と蛍光特性の関係を解明し、その関係を用いて蛍光誘導体化試薬の開発に成功した。この方法は、他の骨格を有する化合物にも適用可能であり、今後、多くの有用な蛍光試薬の開発に繋がると考えられる。
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