肝細胞増殖因子(HGF)は、各種上皮細胞に対して、極めて顕著な増殖促進作用を有することから、肝障害、腎障害などの障害臓器の修復を目的とした、医薬品としての開発が期待されている。しかしながら、そのレセプターの発現が多臓器にわたることから、生物活性が予期しない臓器においても発揮される危険性がある。そこでHGFの体内動態機構を、特に各臓器における抽出効率(一回の通過でどの程度が臓器細胞に結合し取り込まれるか)に焦点をあて、検討を行った。正常ラットにHGFを定速静注し、定常状態下での循環血、肝静脈、腎静脈、左心房中濃度をELISAにて測定したところ、肝臓、腎、肺の抽出率はそれぞれ50-60%、<10%、<10%であることが明かとなった。各種障害モデルラットを用いた解析からも肝抽出率はせいぜい60%程度であることが示唆された。この結果は、HGFを循環血中に投与した場合、いずれの臓器においても半分ないしそれ以上が臓器通過後、再度循環血中に帰還することを意味する。また、内因性のHGFは、不活性型(一本鎖)として生合成され、障害臓器において活性化され二本鎖の活性型HGFとなることから、臓器内毛細血管スペースを一つのコンパートメントと考えた場合には、活性化されたHGFの少なくとも半分以上は循環血中に放出されることを示唆する。一般に内因性HGFは障害臓器特異的に修復効果を発揮すると考えられ、従って何らかのメカニズムによって活性化を受けたHGFがそのまま障害臓器に留まる機構が働いている可能性がある。そこでより障害臓器特異性を発揮させる目的で、HGFの前駆体である一本鎖HGFを遺伝子組み換えにより合成し、その生物活性ならびに臓器移行性について検討を試みた。一本鎖HGFは成熟HGF(二本鎖)に比べ障害臓器特異的な生物活性が比較的強く認められた。
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