血漿リポタンパク質は疎水性薬物や塩基性薬物と強く結合して、その体内動態や薬理効果の発現に影響を与える。低密度リポタンパク質(LDL)は生体内で酸化修飾されるが、LDLの酸化に伴って薬物との結合が変化すると、薬物の体内動態に影響が生じて個人間変動や病態時変動の原因となるおそれがある。また、血漿リポタンパク質の構成成分であるアポリポタンパク質や一部の脂質成分は光学活性な化合物であるので、血漿リポタンパク質と光学活性な薬物の結合は光学異性体間で異なる可能性がある。そこで我々は、独自に開発した高性能先端分析(HPFA)法を利用することにより、LDLの酸化が薬物結合性に及ぼす影響を定量的かつ立体選択的に評価することを試みた。 まず、超遠心法によりヒト血漿から分取、精製したLDL溶液に銅イオンを添加してLDLを酸化した。この時、酸化時間1時間、2時間、4時間、12時間と変えて酸化程度の異なるLDLを調整した。次にLDLと強く結合することが知られている光学活性な薬物であるニルバジピン(NV)をモデル薬物に選び、キャピラリー電気泳動(CE)と先端分析を結合したHPCE/FA法により結合実験を行い、total binding affinityを算出した。その結果、NVとLDL並びに酸化型LDLとの結合には立体選択性が見られないこと、並びに、LDLの酸化時間の増加に伴なってNVとの結合が強くなることを見出した。今後、クロフィブラートやパンテチンのような動脈硬化治療薬とLDLとの結合における酸化修飾の影響について検討する予定である。
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