研究概要 |
1。ヒドロキシアパタイトHAPは哺乳類硬組織(骨、歯)の主成分であり、この硬組織はHAPと蛋白質や多糖類等の有機物との複合体といえる。本研究においては此の硬組織に対する疎水性薬物の結合機構を解明するために、表面改質して部分的に疎水化した合成HAPに対する疎水性薬物モデル物質の結合機構を検討した。 2。HAP表面を硫酸ドデシルナトリウムSDSで処理すると、HAP表面に存在する燐酸イオンとSDSの硫酸基とが同形置換して、SDSがHAP表面に吸着する。このときSDSの疎水基(C12)が溶液側に配向するので、HAP表面には疎水基が植え付けられたことになる。 3。水溶性でしかも疎水基を持つ薬物モデル物質として、Triton-X(TX)およびTrtiton-N(TN)を選んだ。TX及びTNは単独ではHAPに対してほとんど結合しないが、SDSの添加濃度とともにこれらの物質のSDSに対する結合量は増大し、十分量のSDSを添加すると添加したほとんどのTX,TNが母液中から消費された。さらに、NaClの添加量とともに、即ちイオン強度の増大とともに、これらの物質の吸着量が増大することも判明した。また炭素数の大きいTNの吸着量は、TXの吸着量よりも大となった。 4。これらのことより、HAP表面にあるSDSの疎水基とTX,TNの疎水基との相互作用により、界面複合体が形成されて吸着されることがわかった。 5。水難溶性の色素であるmethyl yellow(MY)もSDS処理したHAP表面へ取り込まれた。これはHAP表面に形成されたSDS吸着層の中へ、即ちアドミセルあるいはヘミミセルの中へ、MYが"可溶化"されたためといえる。 6。上に述べた結果から硬組織への疎水性薬物の結合に際してはHAP表面にある有機物の疎水基および疎水性相互作用が重要な役割を演じていることを結論した。
|