研究概要 |
我々は、脂質分子の高い配向性に基づいた秩序構造を有する生体二分子膜の特性を備えたイオン交換性分離用素材の開発を目的として、イオン交換樹脂表面で二分子膜構造を形成させる試みを行ってきた。本研究では、リポソームを形成することが知られているリン酸ジ-n-ヘキサデシル(DCP)を用い、陰イオン交換樹脂-DCP複合体の調整とそのキャラクタリゼーションを行い、以下の知見を得た。 (1)陰イオン交換樹脂-DCP複合体は、あらかじめ湿潤させた陰イオン交換樹脂とDCPの合成二分子膜(リポソーム)溶液との、短時間の接触振とう操作で容易に調製された。FT-IR,X線蛍光分析、顕微鏡観察の結果、イオン交換樹脂上にDCPが担持されていることが確認され、緩衝溶液中で長期間安定であることも明らかになった。樹脂上のDCP量は、Pの定量によって、0.3mmol/g-resin以上の担持が確認できたが、これは計算値にくらべてはるかに高い値であった。 (2)DCPを固定したイオン交換樹脂の無機イオンに対する交換特性の変化は認められなかったが、分子量の大きいタンパク質に対してはDCPの固定により、アニオン交換特性から、カチオン交換特性を示すようになることが、HPLC分析によって明らかになった。 (3)蛍光性膜プローブとしてオクタデシルローダミンB(ODR)を使用し、DCP二分子膜を標識した後、複合体を調製した。共焦点レーザー走査顕微鏡による観察の結果、樹脂表面にDCP層が形成されていることを示す明確な蛍光像が得られた。
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