本研究代表者らは医薬品添加物を含むプラズマ照射有機高分子を用いる医薬品工学への新規な応用研究に取り組んでいる。かかる応用研究において重要なことは、生成するプラズマ誘起ラジカルの構造に関する知見を得ることである。本研究では、単糖類、二糖類および多糖類へのプラズマ照射により生成するラジカルについて、ESRスペクトル測定と組織的なシミュレーション解析により詳細なラジカル構造の解明を行った。この一連の研究により、プラズマ誘起ラジカルの構造が明らかになり、ここで得られた知見は新規な薬物送達システム(DDS)構築の基礎的知見として有用であることを明らかにした。また、多糖類のメカノリシス(粉砕)により生成するラジカルの解析にも取り組み、その生成機構を明らかにした。 一方、プラズマ表面処理による新規DDS構築の工業化を視野に入れるとき、プラズマ照射装置に依存しないプラズマ照射効果の指標を確立することが必要である。かかる観点より、プラズマ診断プローブとしてイノシトールを用いる簡便な評価法を確立した。 これまでのプラズマ照射高分子ラジカルの構造に関する知見を基に、完全ドライプロセスにおけるDDS製造法への応用研究に着手した。すなわち、医薬品を核錠とし、プラズマ照射効果を考慮して選択した高分子を外層に用いた二重錠剤を調製し、そのプラズマ表面処理により徐放性あるいは遅延型速放性のDDS構築が可能であることを明らかにした。また、医薬品とプラズマ照射高分子との混合により機能性複合粉末(モノリティック型DDS)の構築も可能であることを明らかにした。 以上、プラズマ表面処理およびメカノリシスにより生成するラジカル構造の解明により、様々な薬物放出特性を有する乾式DDSの製造が可能であり、今後さらに新しい医薬学応用研究への展開が大いに期待できる。
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