有機二価イオンの分子認識能解明と分子スイッチ構築への応用

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11672148
• 研究機関: 岐阜薬科大学
• 研究代表者: 宇野 文二 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教授 (80160307)
• キーワード: 有機二価イオン / 分子認識 / 分子スイッチ / 有機電気化学 / 水素結合 / パイ-パイ相互作用

研究概要

本研究の目的は、π電子系二価イオンの分子化合物生成能に対応する新規な分子認識機構の提案と、その実証及びそれを利用した電位掃引に伴う分子スイッチの構築である。本年度はこの目的達成のために、有機二価イオンの相互作用を測定するための分光電気化学方法を確立し、キノン類二価イオンの水素結合に関する分子認識と、テトラシアノエチレン(TCNE、電子受容体分子)二価イオンの炭化水素類π電子系に対する分子認識能を明らかにした。パラキノン類二価イオンはメタノールと互いに識別できる1:2及び1:4水素結合錯体を生成し、これらの生成エネルギーは76.6および118.9kj/mol(1,4-benzoquinoneに対して)と非常に大きいものであった。そして、分光学的測定と分子軌道計算から、この水素結合は強いn-σ型の電荷移動相互作用に起因していることが明らかとなった。この結果は、キノン類のredox statesが仲介する生体内での電子移動を水素結合が制御していることを示唆するものである。一方、TCNE二価イオンは4nπ電子系のビフェニレンのみを分子認識能し、π-π型分子間相互作用に基づく分子間電荷移動吸収帯を持つ分子化合物を生成することが明らかとなった。有機二価イオンの、π-π型の相互作用が、本研究によって初めて観測された。この分子化合物生成は4nπ電子系分子の特異的キャラクターを分子軌道レベルで認識し、中性のTCNE鎖体とは異なる構造を与えることが明らかとなった。この結果、TCNE-ビフェニレン系では、電位掃引に伴う2つの安定分子化合物生成系が確立され、その色の変化および鎖体構造の変化は分子スイッチ構築への基礎的知見を与えた。

研究成果

• [文献書誌] N.Okumura,B.Uno: "Electronic Spectra of the Electorogenerated 1,4-Benzoquinone π-Dianion and the Strongly Hydrogen-Bonded Complex with Methanol"Bull.Chem.Soc.Jpn.. 72(6). 1213-1217 (1999)
• [文献書誌] B.Uno,N.Okumura: "Bistable Charge-Transfer Complex Formation in the TCNE-Biphenylene System Based on the Intermolecular HOMO-LUMO Interaction in the Neutral and Dianionic Redox States of TCNE"Chem.Lett.. 1999(9). 983-984 (1999)
• [文献書誌] B.Uno,N.Okumura: "The D_<2d> Structure and Easy Rotation around the C=C Bond of the TCNE Dianion"Chem.Lett.. 1999(11). 1167-1168 (1999)
• [文献書誌] N.Okumura,M.Goto,B.Uno: "Structural and Spectral Characteristics of the Electrogenerated Tetracyanoethylene Dianion"Chem.Pharm.Bull.. 48(4)印刷中. (2000)
• [文献書誌] B.Uno,N.Okumura,M.Goto,K.Kano: "n-σ Charge-Transfer Interaction and Molecular and Electronic Structural Properties in the Hydrogen-Bonding Systems Consisting of ρ-Quinone Dianions and Methyl Alcohol"J.Org.Chem.. 65印刷中. (2000)
• [文献書誌] B.Uno,N.Okumura,K.Seto: "Bistable Charge-Transfer Complex Formation of Redox-Active Organic Molecules Based on Intermolecular HOME-LUMO Interaction Controlled by the Redox Reactions"J.Org.Chem.A. 104印刷中. (2000)