有機化合物の連続的還元過程で生成するは二価イオンは電子供与体として活性であるが、中性の場合と活性軌道を異にするため、分子認識能及び生成する錯体構造の変化が期待される。本研究の目的は、有機π電子系二価イオンの分子化合物生成能に対する新規な分子認識機構の提案と、その実証及びそれを利用した電位掃引に伴う分子スイッチの構築である。具体的には以下の点を明らかにした。 1.パラキノン類二価イオンはメタノールと互いに識別できる1:2および1:4水素結合錯体を生成することを明らかにした。そして、分光学的測定と分子軌道計算から、これらの水素結合は強いn-σ型の電荷移動相互作用に起因していることを分かった。この結果は、キノン類のredox statesが仲介する生体内での電子移動を水素結合が制御していることを示唆するものであった。 2.テトラシアノエチレン、クララニル、ブロマニル等の電子受容体分子の二価イオンは、二価イオンの軌道対称性に基づき4nπ系炭化水素類のみを効率よく認識し、中性の場合と異なった構造のπ-π型電荷移動相互作用による分子化合物を生成することを明らかにした。また、この分子化合物の特異的な電荷移動吸収帯を観測することに成功した。そして、中性の場合と二価イオンの場合で、生成する錯体の構造が変化することおよび分子認識が活性軌道の相の違い(対称性)に起因することを明らかにした。 3.2の結果を基に、電位掃引に伴い4nπ電子系のみを認識して構造と色の異なる錯体生成に基づく酸化還 元仲介型分子認識系を創出し、これを利用した分子スイッチ構築の可否を論じた。 以上の結果は、基礎的な化学的現象(分子認識機構)の解明のみならず、有機あるいは生物反応への概念の適用、実用的分子スイッチへの応用に基礎を与えるものと考えられる。
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