研究概要 |
スルファチドはゴルジ膜に存在するcerebroside sulfotransferaseの作用により、PAPSから基質である糖脂質に硫酸基が転移されて生成する。この酵素は他の硫酸転移酵素、たとえばステロイド、胆汁酸、グリコサミノグリカンなどを硫酸化する酵素とは異なり、ガラクトシルセラミド(GalCer)やラクトシルセラミド(LacCer)などの糖脂質を基質とし、それぞれガラクトシルスルファチド(SM4)やラクトシルスルファチド(SM3)を生成する。従来から、スルファチドは強い陰性荷電をもつ硫酸基を分子内に有する特異な性質のため、生体内における生理機能が注目されており,生理機能の明らかな多くのタンパク質と特異的または非特異的にIn vitroにおいて結合することが知られていた.しかし,これらの結果は外因性に添加したスルファチドの現象を観察した結果であることから、実際に細胞で生合成されたスルファチドの機能をどれだけ再現しているかは不明であった。我々は、3LLルイス肺癌細胞から樹立した酸性スフィンゴ糖脂質を欠損し,且つLacCerを高発現しているJ5株へCST遺伝子を導入し、スルファチドとしてSM3のみを高発現する複数のクローンを作成した.これらのSM3発現株はフィブロネクチンおよびラミニンへの接着能が著しく低下し、インテグリン分子の細胞表面での発現およびmRNAレベルでの発現が著しく低下していた。驚くべきことに、これらSM3高発現肺ガン細胞株は通常培養条件下での増殖率は,Mock transfectantの増殖率と同じであるにもかかわらず,生体内での造腫瘍能が消失していた.この造腫瘍能の消失は、悪性度の高い癌細胞にCST遺伝子を導入しSM3をはじめとするスルファチドを発現させることで、インテグリンの発現が減少し、接着基質と癌細胞の結合全般が低下した結果であること強く示唆している.
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