研究概要 |
(i)液胞型Na+-ATPaseオペロン全体を含んだプラスミドを導入した菌株から精製をスタートすることにより、一度の酵素精製で30mg以上の精製酵素標品を得られる精製法を確立した。液胞型ATPaseはEDTAによるMg2+キレートによって膜から離脱する膜表在性ATPase触媒部分V1とNa+輸送に関わる膜内在性V0部分から構成されるが、V1部分がA,B,C,D,E,F,Gの7つのサブユニットから構成され、V0部分はIとKサブユニットから構成されていることを明らかにした。 (ii)本酵素のサブユニットの中でプロテオリピドNtpKの膜貫通部分に唯一存在する酸性アミノ酸残基グルタミン酸(Glu139)がNa+結合部位と推定していた。NtpKをコードする遺伝子に対する部位特異的変異導入を行うことによりGlu139がNa+輸送に必須であることを示した。興味深いことは同じく酸性アミノ酸残基であるアスパラギン酸(Asp139)に置換した場合には、Na+輸送活性が全く観察されなくなったことである。酸性残基の存在だけでなくその側鎖の原子間距離も厳密に保持されていることが、本酵素のイオンに対する厳密な特異性を反映していると推定された。 (iii)V0部分のローターを構成する16kDaプロテオリピッドNtpKのGlu139を中心にしたNa+の結合部位へのイオンの結合が観察されるかが、本研究の最大のテーマであったが、予想される該当部位へのNa+の結合反応の解析に成功した。一分子ATPase当たり6個のNa+の結合が観察され、この結果はVoローターを構成するNtpKプロテオリピッドの数に相当した。この結果は、輸送イオンであるNa+は直接ローター結合部位へランダムにアクセスしうることを示しており、V-ATPaseイオン輸送機構を考察する上での重要な知見となった。
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