研究概要 |
我々は大腸がんが肝臓に転移しそこで定着・増殖する機構を特に宿主の応答に着目して解明したいと考えている。以下の2点に焦点を絞って解析を行った。 (1)転移初期における癌細胞と肝臓構成細胞との接着・認識機構:FH6モノクローナル抗体に認識される糖鎖の発現レベルは、大腸癌の悪性度と相関し、患者の予後と逆相関する。大腸癌細胞株KM12上のFH6反応性糖鎖はシアリル化・フコシル化を受けているものの抗シアリルルイス抗体の一部に認識されず、エンドβガラクトシダーゼ感受性を示すユニークな糖鎖であることが示唆されている。糖鎖の性質の解明を目的にFH6反応性糖鎖を持たないKM12-LX細胞にβ-1,3-フコース転移酵素VI遺伝子(FUT6)を形質導入し、KM12と同様の抗体反応性を示す糖鎖の人工的構築に成功した。またこの糖鎖を認識する肝臓側の細胞が肝実質細胞であることを肝凍結切片、分離肝細胞に対する接着実験によって見出した。 (2)微小転移周囲の宿主組織が再構築され転移腫瘍が確立する過程:微小転移周囲の宿主組織が再構築され転移腫瘍が確立する過程を組織学的手法を用いて経時的に観察した。マウス大腸癌細胞株colon38による肝転移巣の形成は微小転移巣、過渡的な微小転移巣、確立した転移巣の3段階に分類された。微小転移巣では特定の宿主細胞が転移巣内に浸潤していたが、過渡的な微小転移巣では多種の宿主細胞が浸潤し、さらに隣り合う微小転移巣間を連結する繊維芽細胞の進展構造が形成されていた。この伸展構造は細胞外マトリクスや新生血管の形成を伴っており、繊維化の初期段階として重要であると考える。さらに確立した転移巣では繊維芽細胞の形成する間質が豊富に観察され、またcolon38細胞はこの間質領域に存在する宿主細胞と離れて存在していた。転移腫瘍の確立過程で癌と間質が分離する何らかの機構が想定された。
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