ラット精巣から、体内でテストステロン(Tes)合成を主に担うLeydig細胞を精製し、D-アスパラギン酸(D-Asp)がTes合成を亢進するかどうかをまず検討した。その結果、D-Asp存在でLeydig細胞を予め3時間以上培養すると、その後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)で誘導されるTes合成が、有意に促進されることが明らかになった。また、この促進効果は、D-Aspを細胞内に取り込むことが知られているグルタミン酸トランスポーターの阻害剤によって抑制された。すなわち、D-Aspは細胞内に取り込まれて促進作用を示すことが示唆された。さらに、D-Aspがどの様なステップに作用してTes合成を促進するのかを検討した。hCGは、その受容体に結合した後、細胞内のcAMP濃度を増加させてTes合成を促進するが、hCGの代わりにdibutyryl cAMPで刺激しても、D-Aspの促進効果が認められた。このことは、D-AspがcAMPの濃度上昇以降のステップに作用することを示している。Leydig細胞内では、Tesの前駆体であるコレステロール(Chol)が、まずミトコンドリアの内膜へ運ばれ、P450sccによる側鎖切断反応を受けたあと数種の代謝を受けてTesに変換される。この内膜へ運ばれる段階がTes合成全体の律速段階であると言われている。細胞外から水溶性が高い水酸化Cholを与えると、この律速段階をスキップしてすばやく内膜へ運ばれ、側鎖切断反応を受けてTesに変換される。水酸化Cholを与えてTes合成を亢進させた場合には、D-Aspはもはや促進効果を示さないことが明らかになった。このことは、D-Aspが、ミトコンドリア内膜におけるP450sccによる側鎖切断反応よりも前のステップに作用することを示している。
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