昨年度は、哺乳類体内でテストステロン(Tes)合成を主に行うLeydig細胞において、D-アスパラギン酸(D-Asp)が、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)によるTes合成に対して有意な促進効果を示すことを明らかにした。さらに種々の検討を行った結果、D-AspはhCGによる細胞内cAMPの濃度上昇以降のステップおよび、Tesの前駆体であるコレステロール(Chol)がミトコンドリア内でP450SCCにより側鎖切断を受けるよりも前のステップに作用していることを明らかにした。本年度では、この結果に基づいて、さらに詳しい促進効果の分子メカニズムを解析した。 D-Aspの作用点として可能性のあるステップを種々検討した結果、D-AspはSteroidogenic Acute Regulatory protein(StAR)と呼ばれるタンパク質の合成促進を介して、Tes合成を促進していることが明らかになった。Tes合成はその前駆体であるCholがミトコンドリアの外膜から、側鎖切断酵素(P450SCC)が存在する内膜へ運ばれる必要があるが、このステップがTes合成の律速段階であるといわれている。StARは、この段階を亢進する働きのあるタンパク質である。D-Asp処理を行ったLeydig細胞では、このStARのタンパク質量が増加していることが、Immuno blot法により明らかになった。また、D-Asp処理を行うと、StARのmRNAレベルも上昇することがNorthern blot法により明らかになった。すなわち、Leydig細胞において、D-AspはStARの遺伝子発現を促進することによって、Tesの合成を促進していることが明らかになった。
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