本研究では、神経細胞死抑制効果および生存・維持活性化作用のある脳由来神経栄養因子(BDNF)とPACAP(pituitary adenylate cyclase activating polypeptide)のカルシウム(Ca^<2+>)シグナル依存的な発現制御系の解析と、BDNFのシナプス形成に与える影響を検討した。 1.BDNF遺伝子プロモーター(BDNF-P)の解析 (1)BDNF-PIと-PIIIのCa^<2+>シグナルへの異なった応答性について:電位依存性L-型カルシウムチャネル(L-VDCC)とNMDAレセプター(NMDA-R)からのCa^<2+>流入に対して、BDNF-PIはL-VDCCからのCa^<2+>流入に対してだけ応答したが、BDNF-PIIIはNMDA-R由来のCa^<2+>流入にも弱いながら応答した。 (2)BDNF-PiのCa^<2+>応答エレメントの検索:BDNF-PIの部分欠失、変異型プロモーターを作製してCa^<2+>応答性を調べた所、-80〜-90の存在するCREが応答性に強く関わっていることが明らかとなった。また、CREBの関わりも明らかとなった。 2.PACAP遺伝子プロモーター(PACAP-P1A)の解析 PACAP-P1Aの-200付近のCREを含む領域と、exon1Aより下流の領域がPACAP-PIAの基本転写開始に強く関わっていることが明らかとなった。 3.神経細胞活性化に関わる細胞内情報伝達系の解析:PACAPによる細胞活性化には、MAPキナーゼの活性化が関わっていることが明らかとなった。また、内在的に合成されたPACAPが神経細胞活性化に寄与していることが明らかとなった。 4.BDNFのシナプス形成に与える影響:ラット大脳皮質初代神経細胞培養系でBDNFを加えて培養を行うと、シナプス形成の促進が認められた。 本研究の遂行によって、神経細胞における活動依存的な生存・維持活性の細胞内制御系の理解が一段と進んだ。今後、このカルシウムシグナル依存的な発現制御系に作用し得る薬物の検索が可能になるものと期待される。
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