研究概要 |
胃H^+,K^+-ATPaseは胃酸分泌を行うプロトンポンプである。このポンプは触媒鎖であるα鎖と非触媒鎖である糖蛋白質β鎖からなる。本研究ではα,β鎖に変異導入やキメラ体作製を行い,培養細胞に発現させてポンプの機能的な変化を観察して,α,β鎖の役割や,α,β鎖上の機能部位の特定を行った。 1.プロトンポンプ阻害剤の反応部位,反応機構の検討: SCH28080は胃プロトンポンプのK^+-結合部位に競合的に反応して活性を阻害し,その反応部位や反応機構がナトリウムポンプに対する阻害材であるウワバインに対応すると考えられてきた。私はプロトンポンプとナトリウムポンプのα鎖の間でキメラ体を構築し,ウワバインとSCH28080に対する感受性の変化を検討した。その結果,ウワバインとSCH28080に対する感受性がalternativeに変化すること,また,ウワバインとSCH28080の双方に感受性を示すキメラ体が存在することから,両薬物の反応部位に重複が見られるものの同一でないことを確認した。 2.βサブユニットの機能部位の特定: 胃プロトンポンプとナトリウムポンプのβ鎖の間でキメラ体を構築して,細胞内での発現部位やプロトンポンプの触媒活性に対する影響を検討した。その結果,プロトンポンプβ鎖の細胞外に存在するQLKSモチーフがプロトンポンプに重要であり,ポンプの特異性を決定づける構造であることを確認した。 3.βサブユニットの糖鎖の機能的な意義の検討: プロトンポンプβ鎖の糖鎖付加部位に変異を導入して,7本の糖鎖を逐次除去してポンプの細胞内局在性や活性に対する糖鎖の役割を検討した。その結果,個々の糖鎖は生合成されたポンプの細胞内移行や安定性,触媒能に影響しないことを確認した。しかし,糖鎖を3本以上除くとポンプが細胞表面に発現しなくなることから,糖鎖を含むポンプの立体構造が細胞内移行に重要であることを確認した。
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