研究概要 |
胃H^+,K^+-ATPaseは胃酸分泌を行うプロトンポンプである.このポンプは触媒鎖であるα鎖と非触媒鎖である糖蛋白質β鎖からなる.本研究ではα,β鎖に変異導入やキメラ体作製を行い,培養細胞に発現させてポンプの機能的な変化を観察して,α,β鎖の役割や,α,β鎖上の機能部位の特定を行った。 1.β鎖の糖鎖の機能的な意義の検討:プロトンポンプβ鎖の糖鎖付加部位に変異を導入して,7本の糖鎖を逐次除去し,ポンプの細胞内局在性や活性に対する糖鎖の役割を検討した.その結果,個々の糖鎖は生合成されたポンプの細胞内移行や安定性,触媒能に影響しなかった.しかし,糖鎖を3本以上除くとポンプが細胞表面に発現しなくなり,糖鎖を含むポンプの立体構造が細胞内移行に重要であることが確認された. 2.α鎖のM4のイオン認識部位の検討:α鎖の4番目の膜貫通領域(M4)に存在するGlu-345に変異導入を行いイオン認識部位としての役割を検討した.Glu-345に変異を導入しても,H^+,K^+-ATPaseのリン酸化能は傷害を受けないが,脱リン酸化過程におけるK^+に対する感受性が低下,または消失した.さらにGlu-345は水素イオンとの反応性,基質であるATPとの反応性にも影響する残基であることを確認した. 3.α鎖のリジン,グリシンクラスターの役割についての検討:α鎖のアミノ末端領域には特徴的なリジン,グリシンから成るクラスターが存在し,多くの正電荷を持つことからポンプのイオン輸送におけるフィルター的な役割を果たすと考えられてきた.しかし,このクラスター構造に変異導入を行いこれを除去しても,変異体は野生型プロトンポンプと同等に発現し,酵素活性を保持し,そのK^+親和性やpH感受性も野生型プロトンポンプと大きな変化がなかった.このことから,リジン,グリシンクラスターがポンプの触媒機能に直接関与しないことが確認された.
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