一過性前脳虚血負荷後のラット脳内におけるフラクタルカインmRNA発現をin situ hybridization法により検討し、脳虚血負荷後に神経変性を被りやすい大脳皮質外錐体細胞層、海馬CA1野錐体細胞層および視床外側腹側核においてフラクタルカインmRNAレベルが顕著に低下することを見出した。一方、CX3CR1mRNAの発現は脳虚血負荷後3日と7日において、上述の脳部位において逆に著しくに増大することを見いだし、さらに、その発現はミクログリアに局在することを明らかにした。一方、脳虚血負荷後の海馬でのフラクタルカイン量の変化を免疫組織化学的手法により検討した結果、海馬CA1野錐体細胞層におけるフラクタルカイン様免疫活性は虚血/再灌流6時間後から増大し、1日後、3日後、7日後では、各々、80.0%、88.2%、89.7%の錐体細胞が強いフラクタルカイン様免疫活性を示した。さらに、アポトーシスを検出するTUNEL染色とフラクタルカイン免疫染色の二重染色を行ったところ、強いフラクタルカイン様免疫活性を示し、かつ、TUNEL陽性である細胞は、虚血/再灌流1日後、3日後、7日後では、全錐体細胞中、3.8%、45.6%、85.9%であった。神経細胞がアポトーシスによる細胞死に先立ちフラクタルカインを蓄積することが示された。さらに、一過性前脳虚血負荷ラットの側脳室内にフラクタルカインを反復投与し、フラクタルカインの海馬神経細胞死およびミクログリア活性化に対する効果を検討した結果、vehicle反復投与群に比較し、海馬CA1野およびCA3野において錐体細胞の神経細胞死が増悪されたことに加え、より多くの活性化ミクログリアが観察された。以上の結果から、脳虚血負荷後の脳内において、フラクタルカインが神経変性部位で観察されるCX3CR1mRNA陽性のミクログリアの集積・活性化に関与し神経細胞死を増悪する方向に働いている可能性が示唆された。
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