研究概要 |
今年度においてはinterleukin1受容体(以後,IL-1受容体)に続く情報伝達分子であるMyD88,IRAK,TRAF6の全構造を決定した(ラット血管平滑筋)。さらにこれを利用することにより発現ベクターの調製にとりかかり,MyD88,TRAF6についてはその作製を完了した。TRAF6を形質導入したところ,IL-1によるinducible NO synthase(以後,iNOS)遺伝子の発現は確かに増強されたものの,NF-κB核内移行は逆に抑制された。この結果はこれまで知られていた「IL-1受容体〜TRAF6〜NF-κB核内移行」という直列的シグナリングの概念からは説明できないものであり,研究の新たな可能性を示唆しているものと考えられる。すなわちIL-1受容体活性化によるiNOS遺伝子発現は,必ずしもNF-κBの活性化と一義的に連動していないという考え方である。しかしながら発現ベクター導入後の経過時間の設定が適切でなかったなどの理由により得られたアーチファクトである可能性も否定できないため今後更に検討を続けたい。IL-1は数多くの難病・生活習慣病の発症に中心的な役割を果たすと考えられている炎症性サイトカインであり,今回得られた成績はNF-κBが真にこれらの疾患に関与する転写因子であるかどうかを問うものであり,新しい治療法及び新薬の開発の指針に対して本質的な問いを投げかけたものであると自負している。
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