研究概要 |
今年度においてはinterleukin1受容体(以後,IL-1受容体)を介した誘導型NO合成酵素(iNOS)mRNA分解抑制系に関する検討を行なった。IL-1受容体は一般にiNOS遺伝子発現を行なうとされており,これまでのIL-1受容体とiNOS誘導に関連する報告は全てiNOS遺伝子発現機序に関連したものであった。我々は今回初めてIL-1受容体が活性化されるとiNOS mRNAの分解抑制系が活性化されることを見いだし,さらにその情報伝達経路について分子生物学的検討を行なった。各種キナーゼ及びタンパク質の機能阻害薬のスクリーニングの結果,同分解抑制系にはMAPキナーゼ・ファミリーの一員であるp38が関与する可能性を見いだした。実際にIL-1を処置したところ,MAPキナーゼ・ファミリーの中でp38のみが特異的に活性化され,他のMAPキナーゼ群に属するERKやJNKには影響を与えないことを示すことができた。さらにp38を活性化させるためにp38のすぐ上流の酵素であるMKK6の恒常活性化型変異体を強制発現させたところ,受容体を刺激させずにiNOS mRNA分解を抑制できることを証明した。今回得られた成績は,IL-1受容体を介したiNOS発現系にiNOS mRNA分解抑制系という新しい経路が存在することを情報分子生物学の立場から明らかにしたものであり,新しい治療法及び新薬の開発に対する新規な標的分子の存在を示す可能性を拓いたものであると自負している。
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