研究概要 |
近年,種々の逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤の組み合わせによる多剤併用療法により,HIV-1感染者の延命効果が報告される一方で,多剤耐性ウイルスの出現は長期にわたる抗ウイルス剤投与に伴う副作用や服薬の困難さと相まってHIV感染症・エイズの化学療法を困難なものにしている。HIV-1がこの高い変異率に基づく薬剤耐性獲得能を有するかぎり,ヒトとHIV-1の知恵比べはこれからも続くことが予想され,薬剤耐性を獲得しにくい,次世代の抗HIV剤の開発が望まれる。HIV-1プロテアーゼは,前駆体タンパク質(Pr55gag,p160gag-pol)からウイルス構造タンパク質と種々の酵素(プロテアーゼ,逆転写酵素,インテグラーゼ等)を生成する。しかしプロセシング終了後,どのような機構によって,その活性が制御されているのかについては未だ判っておらず,この点に申請者らは注目し,これまで以下のような研究成果を得ている。 1)in vitroにおいて前駆体タンパク質(Pr55gag,p160gag-pol)の最終プロセシング産物に相当する化学合成されたp2gagペプチドがHIV-1プロテアーゼの活性を阻害すること。 2)p2gagドメインは,種々のHIV-1サブタイプにおいて高度に保存されいること。 3)p2gagペプチドのHIV-1プロテアーゼに対する阻害機構は,HIV-1プロテアーゼの活性2量体形成阻害剤である。 4)MALDI TOF-MAS分析の結果,p2gagは実際に出芽後のウイルス粒子中に存在すること。 以上の結果は,HIV-1ライフサイクルにおいて,プロテアーゼの活性を阻害するためのHIV-1固有の内因性プロテアーゼ阻害剤の発見であり,薬剤耐性変異株の出現を抑えることのできる次世代のプロテアーゼ阻害剤の開発につながるものであると考えられる。
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