抗腫瘍多糖β-glucanの1種であるカードランのカルボキシメチル化体(CMCD)の存在下にマウスマクロファージ様細胞株P388D1を培養するとき、培養上清中にウシ大動脈血管内皮細胞に対する増殖抑制活性が分泌されることを新たに見出した。従って、この上清から硫安分画及び各種カラムクロマトグラフィーにより血管内皮細胞増殖抑制因子の精製を試みた。最終精製標品をSDS-PAGEにて確認したところ、約55と63kDa付近に2本のタンパク質バンドが銀染色により検出された。ゲルろ過法による精製品の分子量測定では、約60kDa付近に単一の活性ピークを認めた為、本標品は部分製製品であることが判明した。そこで、C18カラムを用いたHPLCにて精製したところ、SDS-PAGEにて約60kDaに単一のタンパク質バンドが認められたが、血管内皮細胞増殖抑制活性は失活していた。このタンパク質のN末端アミノ酸配列分析を行ったが、配列は得られず、N末端のブロックが考えられた。従って、以下の実験においては部分精製品を用いて行った。本因子はウシ大動脈血管内皮細胞ばかりでなく、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞や皮膚毛細血管内皮細胞の増殖も抑制した。また、本因子はマクロファージや好中球の接着能や透過能を亢進し、マクロファージのNO産生を誘導した。すなわち、これら血球細胞の活性化を惹起することを認めた。しかしながら、リンパ球増殖には影響を及ぼさなかった。更に、本因子はin vivoでsarcoma 180移殖マウスの腫瘍塊に対する退縮活性を示した。腫瘤塊の切片を作製し、免疫化学的に検討した結果、腫瘍塊中の血管系の異常が認められた。すなわち、本因子による腫瘍退縮機構の一つとして、血管内皮細胞増殖抑制に基づくことが示唆された。
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