本研究は、細胞・分子レベルでの機能解析が進んでいない低分子量ストレスタンパク、特にヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)と27kD熱ショックタンパク質(HSP27)に着目し、これらの中枢神経系における機能を明らかにすることを目的とした。HO-1とHSP27をコンディショナルに発現するラット副腎褐色腫PC12細胞を用いて、これら低分子量ストレスタンパクの細胞保護機能を検討した。血清除去によるアポトーシス様の細胞死をHSP27は顕著に抑制したが、HO-1を発現した細胞では明らかな細胞保護効果は認められなかった。また、酸化ストレスや遺伝子毒性を示す薬物に対する低分子量ストレスタンパクの作用を検討したが、いずれの場合も明らかな細胞保護作用は認められなかった。一方、神経成長因子(NGF)により神経細胞様に分化させた場合、過酸化水素など酸化ストレスに対する感受性が増大した。さらに、分化細胞にHO-1を強発現させると細胞死が誘導され、HO-1の基質として低濃度のヘミンを添加することで細胞死が増加した。このヘミンの効果は鉄キレート剤のデフェロキサミンにより消失した。以上の結果から、PC12細胞では分子シャペロン機能を有するHSP27が増殖因子除去によるアポトーシスに対し抑制的に働くことが明らかになった。しかし、酸化ストレスにより誘導されるHO-1は未分化細胞で保護機能を示さないばかりでなく、神経細胞における過剰なHO-1発現は酵素反応による鉄の遊離を介してむしろ酸化ストレスを惹起し、細胞死を誘導することが示唆された。
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