研究概要 |
動脈硬化の発症要因として酸化LDLの重要性は共通認識となっている。酸化LDLに生じる酸化PCは、マクロファージの酸化LDL認識に関わっており、また血管内皮細胞などに対する活性化作用を示すことから、酸化LDLの動脈硬化発症に極めて重要な分子であると推定される。本研究では、酸化PCを認識するモノクローナル抗体DLH3を活用し、泡沫細胞内での酸化PC-apoB複合体の代謝運命と、種々モデル酸化LDLの性状解析を行った。 病巣内の泡沫細胞がDLH3抗体と抗apoB抗体で強く染色され、酸化PC-apoB複合体の蓄積が示された。抗体を用いて細胞内に存在する酸化PC-apoB複合体を定量し、J774マクロファージ細胞に一旦取り込まれた酸化LDLの一部が細胞内に蓄積することを見出した。この蓄積は、マクロファージの分解活性の抑制によるものではなかった。細胞内オルガネラを分画したところ、二次リソゾームに100kD以下程度に部分分解された酸化LDLを確認した。これらの知見より、酸化LDLはマクロファージのリソゾーム内に一部蓄積されるものであり、病巣の泡沫細胞では酸化LDLに由来する断片が蓄積すると考えられた。 近年、緩和な酸化条件で調製した微少酸化LDL(MM-LDL)が、生体内酸化LDLのモデルとなる可能性が指摘されている。そこで、種々酸化条件下、修飾の程度の異なる種々酸化LDLの性状を比較検討した。1,4-ヘキサンジオンを用いアルデヒド型酸化PCを蛍光誘導体にした後、HPLCによる高感度検出系で酸化LDL中の遊離型酸化PCの定量を可能にした。FeSO4添加、4℃で反応させるMM-LDLは、TBARSやアガロースゲル電気泳動度での酸化変性度はわずかであったにもかかわらず、酸化PCや酸化PC-apoB複合体の生成量は非常に高い値が得られた。目下、このような酸化LDLの性状の差と、内皮細胞やマクロファージへの作用との関連を検討することが急務であるが、酸化LDL中の機能分子としての酸化PCの寄与を明らかにする糸口を得たものと期待している。
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