モルモット血漿型PAFアセチルヒドロラーゼに存在する3箇所のアスパラギン結合性糖鎖の結合配列(N76、N200、N324)について、それぞれのAsn残基をGln残基に置換することにより糖鎖結合が不可能になったミュータントをKunkel法に従い作製した。これらのミュータントと、Wild-typeのDNA塩基配列を決定し、真核細胞発現用ベクターに組換え、COS7細胞に導入した。 Western blotting法で解析されたミュータントの分子量はWild-typeに比べ低下しており、本酵素が確かに翻訳後糖鎖修飾を受けていることが示唆された。また、アスパラギン結合型糖鎖の合成阻害薬であるツニカマイシンで処理したCOS細胞に発現させたモルモット血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼの分子量は対照細胞と比べ小さく、N76Q/N200Q/N324Qミュータントの分子量と一致していた。これらのミュータントの酵素活性を比較した結果、ミュータント酵素の示す酵素活性はWild-type蛋白の示す酵素活性に比べ変化しており、この酵素に結合する糖鎖は酵素活性の調節に関与することが示唆された。現在、どのようなメカニズムによって糖鎖が酵素活性に影響を及ぼすかについては解明できていないが、糖鎖の有無により酵素分子の高次構造が影響を受ける可能性が考えられ、将来、結晶化酵素の高次構造解析が必要と考えられる。 これまで血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼとして酵素精製の報告があるものとしてモルモット以外にヒト酵素があるが、ヒト酵素も糖結合蛋白であることが報告されている。一方、ヒト肝臓由来癌化細胞株であるHepG2細胞の分泌する血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼについても、私たちの結果と同様に、糖鎖が酵素活性に影響を与えることが報告されており、血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼが酵素活性に及ぼす影響については、今後、更に、詳細な検討が必要である。
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