胃癌の腹膜転移の初期過程においては、インテグリンなどを介するがん細胞と腹膜との接着反応が重要であると考えられている。本研究では、VLA-3の発現が高い胃癌細胞が腹膜転移を起こしやすいという臨床成績に基づき、この機序の解明を目的として研究を行った。 1.ヒト白血病細胞株K562にVLA-3 αサブユニットcDNAをトランスフェクトした細胞(K3-9)およびモックトランスフェクタント細胞(KR)を使用し、腹膜に対する接着性を比較したところ、K3-9細胞はKR細胞に比べ接着率が高いことが判明した。 2.4種類の胃癌細胞株を使用し、腹膜接着に対する抗VLA-3抗体の影響を調べたところ、いずれの癌細胞においても腹膜への接着が阻害された。 3.腹膜播種形成におけるVLA-3のin vivoでの関与を調べるために、K3-9細胞およびKR細胞をSCIDマウス腹腔内に移植する実験を行なった。その結果、K3-9細胞を移植したマウスにおいて腹膜および横隔膜に腫瘍形成が認められ、KR細胞を移植したマウスに比べ死亡率も高かった。 以上の結果から、癌細胞表面でのVLA-3インテグリン発現増加により腹膜との接着反応が増強され、局所での腫瘍形成が促進されることがわかり、この分子が腹膜播種形成において重要な因子となっていることが推測された。
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