グルタミン酸は中枢神経系での主要な興奮性の神経伝達物質である。イオンチャネル型グルタミン酸受容体のサブタイプの一つであるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体はカルシウムイオンを細胞内に流入させる特徴を持つ。脳虚血時などにおける過剰なカルシウムイオンの流入が細胞死を引き起こすことはよく知られている。 本研究ではNMDA受容体がアポトーシス抑制作用を持つことについて調べた。NMDA受容体アンタゴニストMK801は、ラット胎仔大脳皮質培養細胞(18-20日齢胎仔から調製後、培養9-13日目)の細胞内カルシウム濃度の低下させ、核の凝集や断片化とDNAの断片化を伴うアポトーシス様の細胞死を惹起した。アゴニストのNMDAを共存させると、アポトーシスが抑制された。 また、MK801処理によってcaspase-3の著しい活性上昇が認められ、caspase-3阻害剤はMK801誘導アポトーシスを抑制した。また、タンパク合成阻害剤シクロヘキシミドは細胞死とcaspase-3活性化を阻止した。Insulin-like growth factor I(IGF-1)はMK801による細胞死およびcaspase-3の活性化を完全に抑制した。IGF-IはMK801による細胞内カルシウム濃度の低下に影響を与えなかった。 以上のように、NMDA受容体はラット大脳皮質神経細胞の生存維持にも関与することが示唆された。IGF-Iはカルシウムイオン流入に影響を与えなかったので、その下流で働いていると考えられる。NMDA受容体やIGF-I受容体が持つ神経栄養因子作用の共通のターゲットとして、タンパク質リン酸化酵素Aktが関与し、caspase-3の活性化を伴うアポトーシスを抑制すると考えられる。
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