本研究の目的は神経細胞においてCa^<2+>がその生存にどのように関わっているかを明らかにすることである。いくつかのCa^<2+>流入経路のうち、グルタミン酸受容体を介するCa^<2+>の生存への役割を調べた。グルタミン酸は中枢神経系での主要な興奮性の神経伝達物質である。イオンチャネル型グルタミン酸受容体のサブタイプの一つであるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体はカルシウムイオンを細胞内に流入させる特徴を持つ。NMDA受容体サブタイプは分化の過程で著しく変化し、シナプス形成期前にはNR2Bのみ発現し、NR2Aはその後遅れて発現する。ラット培養大脳皮質細胞のシナプス形成期にあたる培養10日目の細胞を用いてNR2Bに選択的なNMDAアンタゴニストのifenprodilの細胞生存に対する影響を調べた。 ifenprodilにより細胞体の萎縮が観察され、さらに、核の凝集・断片化、DNAの断片化が認められた。この細胞毒性は、アゴニストであるNMDAにより抑制され、さらに細胞内カルシウムイオンの減少も認められた。また、caspase-3が活性化され、caspase-3阻害剤によって、細胞毒性は抑制された。タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドによっても、この細胞毒性およびcaspase-3の活性化は抑制された。このように、ifenprodilはcaspase-3を介するアポトーシスを誘導することがわかった。この細胞にはRT-PCRおよびウエスタンブロット法により、少なくともNR1、NR2A、NR2Bサブユニットが発現していることが確認された。MK801とifenprodilによるアポトーシスを起こす細胞数の比較から、シナプス形成期には、NR1/NR2B受容体が大脳皮質細胞の生存維持に関わっていることが示唆された。また、IGF-IやBDNFの神経栄養因子はphospatidylinositol 3-kinaseを介して、アポトーシスを抑制していることが示唆された。IGF-IやBDNFはカルシウムイオン流入に影響を与えなかったので、その下流で働いていると考えられる。
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