β-カテニンは、細胞接着因子カドヘリンの細胞間接着能を制御する分子として見いだされたが、近年、この作用以外にも形態形成因子Wntのシグナルカスケードの一因としての役割を担っていることが明らかになった。通常、細胞質にβ-カテニンは殆ど存在しないが、Wntシグナルが細胞内に伝わると、細胞質内のβ-カテニンは安定化され発現量が増加し、その結果、β-カテニンは核へ移行し転写因子として働き標的遺伝子の発現を誘導すると考えられている。β-カテニンは、GSK-3βによるリン酸化、そしてユビキチン化を受け、その後、プロテオソームにより分解される。Wntシグナルは、このリン酸化を抑えるためユビキチンによるβ-カテニンの分解を抑えると考えられている。私達は、Wntのシグナルにより、β-カテニンに結合しているAxinの脱リン酸化が起きること、脱リン酸化されたAxinはβ-カテニンに対する親和性が低下することを示した。また、この時、細胞質および核にβ-カテニン量が増加しており、Axinのリン酸化状態はβ-カテニンの安定性を制御していることが明らかとなった。 上皮性のがん細胞株やがん患者の中にはβ-カテニン遺伝子の変異(エクソン3)が起きており、多量のβ-カテニンが細胞質に存在するようになる。その結果、Wntのシグナルと関係なしに上昇した細胞質のβ-カテニンが、種々の遺伝子の発現を誘導してがんを引き起こす可能性が考えられる。そこで、β-カテニンのN末のセリンおよびスレオニン(ヒトがんにおいて高頻度に変異が見つかっている)に変異を起こさせた遺伝子をトランスフェクションしたところ、この変異β-カテニンは細胞内で安定に存在した。この細胞において、どのような遺伝子の誘導が起きるかreporter assayを用いて調べている。
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