β-カテニンはユビキチン/プロテアソーム系により分解され、その細胞質あるいは核内の量は厳密にコントロールされている。しかし、癌の場合では、この分解系の異常により、しばしば核や細胞質内にβ-カテニンが検出されるようになる。本研究では主として、(1)ヒトの癌において、どのようなβ-カテニン遺伝子の変異が起きているのか、(2)細胞内にβ-カテニンを蓄積させたとき細胞にどのような変化が起きるかを調べ、β-カテニン遺伝子の変異による癌化の分子機構を明らかにすることを研究目標とした。私達はヒトの疾病と遺伝子の変異に関するデータベース(MutationView)を作成しており、現在、種々の疾患の原因となるヒト遺伝子200以上について入力を済ませており、その遺伝子の中にはβ-カテニン遺伝子が含まれている。β-カテニン遺伝子の変異441例が入力されており、変異型はミスセンス変異や欠損が多かった。β-カテニン遺伝子は16エクソンよりなるが、遺伝子の欠損はエクソン3に集中して起きていた。また、ミスセンス変異についてもエクソン3の特定のアミノ酸(殆どの場合セリン)に起きていた。そこで、これら変異型β-カテニンを強制的に発現することにより、変異型β-テニン蛋白質が癌化にどのような影響を与えるかを調べるため、ヒトで見つかつた種々の変異を導入したβ-カテニンcDNAを作製し、発現ベクターに組み込んだ。その遺伝子を導入する細胞としてマウスとヒトの細胞株を2種ずつ選択し、発現する細胞株のスクリーニングを行ったが安定に発現する細胞株を得ることができなかった。今後は、種々のヒト癌においてβ-カテニン遺伝子のエクソン3以外のところにも変異がないかを調べる予定である。さらに、これら遺伝子レベルの変異が真に癌化に関係あるのかを明らかにするため、引き続き、種々の変異型遺伝子を安定的に発現する細胞株の樹立を試みる予定である。
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