シトクロムP450の1分子種であるCYP2A8はダイオキシン受容体のアゴニストである3-メチルコランスレン(3-MC)によって誘導されることが知られている。そこで、CYP2A8の遺伝子転写機構を明らかにするために、CYP2A8のゲノム遺伝子の5'上流域をクローニングし種々の長さの5'上流域をルシフェラーゼ遺伝子と結合させたレポータージーンを構築した。このレポーター遺伝子を初代培養肝細胞に導入し、3-MCの添加によって発現するルシフェラーゼの活性を測定した。その結果、CYP2A8ゲノム遺伝子上の5'上流域には転写開始点から-2366bpから-2349bpの間にダイオキシン受容体応答配列(XRE)が存在していることを見いだした。さらにその近傍を詳細に調べたところ、XREの上流に転写活性を4から5倍程度増強する配列を見いだした。肝細胞の核抽出液を用いてゲル移動度アッセイを行ったところ、この塩基配列に結合する核内因子を見いだした。この塩基配列はこれまでに明らかにされている転写因子の結合配列とは相同性は無く、新規の応答配列であることがわかりPREXと命名した。一方、昆虫由来のドロソフィラ細胞を用いてXREを介する転写活性に及ぼすPREXの影響を調べたところ、PREXによる増強作用は見られなかった。そこで、ドロソフィラ細胞の核抽出液を用いてゲル移動度アッセイを行ったところ、この核抽出液中にはPREXに結合する核内因子は無いことがわかった。以上の結果から、肝細胞の核内にはPREXと結合しXREを介する転写活性を増強する作用を有する因子が存在していることがわかった。
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