ヒト死因の1位を占めるがん化に関与する癌遺伝子、癌抑制遺伝子の分離や機能解析は、がんの分子機構や治療戦略の解明に極めて重要である。我々はヒト11番染色体に存在する新規癌抑制遺伝子に着目し、腫瘍性の異なるHeLa融合細胞系を用いて、この癌抑制遺伝子により正負に転写制御をうける糖輸送タンパク質など細胞膜タンパク質の発現変化を解析した。癌抑制遺伝子により腫瘍化の抑制された融合細胞では糖輸送タンパク質Glut1を発現していたのに対し、腫瘍性融合細胞はGlut1とともに、糖輸送タンパク質ファミリーのGlut3を発現していた。これらアイソフォームの腫瘍化における機能を解析する目的で、細胞膜における局在性を比較検討した。両細胞系に発現するGlut1は大部分が界面活性剤に難溶性のラフトと呼ばれる脂質膜ドメインに存在していたのに対し、腫瘍特異的なGlut3は界面活性剤に可溶性の流動性に富んだ脂質膜ドメインに存在し、それぞれ異なる細胞膜ドメインで糖輸送活性を制御することが示唆された。 新規癌抑制遺伝子の転写制御機能について、ヒト由来のカベオリンプロモーターを組み込んだルシフェラーゼ発現ベクターを用い、HeLa融合細胞の転写活性を比較検討した結果、カベオリンmRNAの発現量に応じたプロモーター活性の違いが認められた。プロモータの部分変異体を用いた解析から、特異的なDNA領域がこの転写制御に必須であることが判明し、転写因子の結合性についてさらに検討中である。また、in vivoでヒトがん細胞に遺伝子導入が可能な新規カチオン性リポソームベクターを見い出した。
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