それ自身では何の作用も示さない低濃度のα-アミノピメリン酸は、強力な代謝調節型グルタミン酸受容体アゴニストF2CCG-Iをラット脊髄スライス標本に短時間暴露し、それを完全に洗浄した後では、単独で単シナプス脊髄反射の抑制を起こすようになる。α-アミノピメリン酸がF2CCG-Iと殆ど同じ作用を示すようになるのである。この現象は数時間以上持続する。私どもは'キスカル酸priming'の例に倣って、この現象を'F2CCG-I priming'と呼んでいる。グルタミン酸も脱分極を生じない極めて低い濃度でα-アミノピメリン酸と同様の作用をもつ。F2CCG-Iが脊髄組織に取り込まれ、それが再び遊離されるとの仮説を立て、種々の薬理学的検討した結果、Cl^-依存性グルタミン酸トランスポーターを介した現象である可能性が強まった。また'キスカル酸priming'とほぼ同様の機序で生ずることが明らかとなった。さらにF2CCG-Iの取り込まれる部位が、グリア細胞よりむしろ神経細胞である可能性が示唆された。既知のNa^+依存性グルタミン酸トランスポーターは低酸素および低グルコースの環境では殆ど機能しなくなるが、この環境下でもF2CCG-I暴露後のpriming現象は通常通り認められ、むしろかえって増強された。一方、ラット大脳皮質スライス標本でのビククリン誘発epileptiform activityに関してもこの'F2CCG-I priming'現象が認められ、α-アミノピメリン酸により効率的にepileptiform activityが抑制された。このpriming現象に関与するNa^+非依存性グルタミン酸トランスポーターの生理的役割を解明することはグルタミン酸シナプス伝達機構の研究に多くの示唆を与えるものと考えられた。
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