催奇形性の機序を解析する実験系として胎児線維芽細胞が有用であるかを評価するため、催奇形性物質あるいは発がん物質であるthalidomide、phenytoin、DMBA、benzo[a]pyrene、naphthalene、PhIP、MeIQxについてマウスの胎児線維芽細胞における細胞毒性を生細胞数の測定により検討した。これら7種の化学物質の毒性発現には代謝活性化が必要と考えられているが、DMBAおよびPhIPのみで細胞毒性が認められ、他の5種の化学物質では毒性が認められず胎児線維芽細胞はある種の代謝活性化能力を欠いている可能性が示唆された。そこで、代謝活性化能力を補うために動物の肝ミクロソームを用いるプレインキュベーション法の導入を検討した。直接処理では毒性の認められなかったbenzo[a]pyreneにおいて、マウスの肝ミクロソームの存在化でプレインキュベーションした後、遠心上清を胎児線維芽細胞に処理したところ細胞毒性が認められた。さらにthalidomideにより催奇形性を誘発する妊娠ウサギの肝ミクロソームを用いることでthalidomideの濃度依存的な細胞毒性が検出された。一方、マウスの肝ミクロソームを用いた場合、毒性は検出されず、本検出法はthalidomideの催奇形性における種差を再現した。さらにthalidomideの胎児線維芽細胞における毒性発現におけるチトクロームP450の関与を阻害剤により検討した。P450阻害剤である1-aminobenzotriazoleおよびCYP1Aの阻害剤であるでα-naphthoflavone(α-NF)はthalidomideによる細胞毒性を抑制した。またthalidomideによる細胞毒性が細胞増殖阻害に起因しているかを検討するために、^3Hラベルしたチミジンの細胞内への取り込みを指標に解析したところ濃度依存的な細胞増殖の抑制が認められ、この細胞増殖抑制作用は1-amino-benzotriazoleおよびα-NFにより阻害された。またthalidomideの催奇形性にmicrosomal epoxide hydrolase(mEH)が関与するかどうかを明らかにするため、mEH欠損マウスとその野生型マウス胎児線維芽細胞におけるthalidomideの効果についても検討したが、現在までのところ有意な差は認められていない。以上の結果より本検出系におけるthalidomideの毒性は細胞増殖抑制により起こっており、その毒性発現にはチトクロームP450による代謝活性化を必要とすることが示唆された。
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