これまでのβ1アドレナリン受容体(β1受容体)に選択的なアゴニストはβ2受容体に比べその選択性が10倍程度と低く、β1受容体との相互作用を詳細に検討することは困難であった。そこで、これまでに合成されている化合物の中で最もβ1受容体選択性の高い(約50倍の選択性を示す)(-)-RO-363に注目した。β1/β2キメラ受容体や点変異受容体などを作製し、(-)-RO-363のβ1選択性に重要な部位を検討した。その結果、これまでのβ1選択的アゴニストと同様に第2細胞膜貫通領域(TM2)が選択的高親和性結合に関与していることが明らかになった。さらにTM2のアミノ酸のうちβ2受容体とは異なる位置のアミノ酸をアラニンに変えた変異受容体を用い(-)-RO-363の結合を解析すると、110番目のロイシンと117番目のスレオニンが大きな役割を果たしていることが明らかになった。また、これらのアミノ酸と(-)-RO-363の結合は、(-)-RO-363によるアデニル酸シクラーゼの活性化の親和性にそのまま反映されていた。次にアゴニストが存在していなくても活性化された状態になっている構成的活性化β1受容体を用い、活性化された状態でのβ1選択性に重要なアミノ酸(110番目のロイシンと117番目のスレオニン)と(-)-RO-363の結合を検討した。その結果、これら2つのアミノ酸と(-)-RO-363の結合様式はβ1受容体が活性化状態にあっても静止状態と変わらないことが明らかになった。これらの結果より、β1選択的アゴニストの高親和性結合に必要なアミノ酸は活性化には関係しておらず単に受容体のアゴニストへの親和性を上げるために働いていることが示された。
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