薬物体内動態の個体差は、薬物治療の成否を左右する重大な問題である。なかでも薬物代謝活性には著しい個体差が認められ、定量的な評価・予測法の確立が求められている。本研究は、臓器相関の観点から代謝・排泄など薬物体内動態の変動因子を明らかにし、遺伝子工学的手法による評価法の構築を目的として、腎疾患時における3種類の薬物の体内動態を検討した。 1.ロサルタン:CYP2C9やCYP3A4で活性代謝物のカルボン酸体に代謝されるロサルタンを急性腎不全モデルラットに投与した。ロサルタン経口投与時の未変化体濃度は硝酸ウラニル処置群で高値を示し、AUCは有意に増大した。一方、代謝物濃度は対照群に比し低値を示した。ロサルタンの静脈内投与により求めた全身クリアランスは対照群に比し低下した。さらに、腎疾患モデルラット肝臓から調製したミクロゾーム画分では、ロサルタン代謝物の生成速度の低下が認められ、腎疾患による肝臓の薬物代謝活性の低下が示唆された。 2.セフォペラゾン:未変化体の胆汁排泄が主であるセフォペラゾンを静脈内投与した場合、急性腎不全モデルラットでクリアランスが低下し、腎疾患に伴う肝臓の薬物輸送系の変動が示唆された。 3.N-アセチルプロカインアミド(NAPA):有機カチオン輸送系により尿細管分泌を受けるNAPAの体内動態を種々の腎疾患モデルラットで検討した結果、本薬の尿中排泄が腎障害の影響を受け、その予測には内因性有機カチオンであるN-メチルニコチンアミドの腎クリアランス値の利用が有効であることが明らかとなった。 以上の結果より、病態時の薬物動態を評価する上で臓器相関の考え方の重要性が示唆された。
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