研究概要 |
抗体のFabやFvフラグメントをはじめとする低分子ポリペプチドは,速やかな標的組織への移行と血液から消失を示すため,核医学画像診断や内用放射線治療におけるラジオアイソトープ(RI)の運搬体として期待されている.しかしRI標識ポリペプチドの投与では,標的組織と共に腎臓への長時間に渡る非特異的な放射能滞留を示し,臨床応用の大きな障害となっている.これに対して申請者らは,腎臓の刷子縁膜酵素の作用により,ポリペプチド分子からヨード馬尿酸を選択的かつ速やかに遊離する試薬を開発し,インビボにおいても腎臓の放射能集積を投与早期から大幅に低減することを認めた. 本研究では,放射性ヨウ素で達成された研究成果を,広範な臨床応用に適した金属RIであるインジウム-111(^<111>In)およびテクネチウム-99m(^<99m>Tc)へと展開する目的で,これらの金属RIと生体内で安定で尿排泄性の高い錯体を作製する配位子の検討を行った. ^<111>Inは3価の鉄と類似した化学的性質を有するため,血液中で鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンとの配位子交換反応に対して安定な錯体を与える配位子が必要である.そこで,1,4,7,10-tetraazacyclododecane-N,N',N'',N'''-tetraacetic acid(DOTA)を基本骨格に選択し,DOTAの1つのカルボン酸をポリペプチドに結合したときの^<111>Inとの錯形成反応および得られた^<111>In標識ポリペプチドの血清中での安定性を評価した.その結果,トランスフェリンとの交換反応に対して本^<111>In標識ポリペプチドは高い安定性を示したが,その一方で,^<111>In標識体の作製には高濃度の配位子が必要であることが示された.一方^<99m>Tcに対しては,6-hydrazinopyridine-3-carboxylic acid(HYNIC)を配位子に選択して検討を行った.そして,従来汎用されているHYHIC,tricineと^<99m>Tとが形成する混合配位子錯体は,血清タンパク質との交換反応が進行し,^<99m>T標識ポリペプチドの血液からの放射能消失の遅延を招くことを認めた.しかし,HYNIC,tricineおよびpyridine誘導体からなる混合配位子^<99m>Tc錯体は,血清タンパク質との交換反応に不活性であり,生体内で安定な^<99m>T標識体が得られることを明らかにした.さらに担癌マウスを用いた検討から,本法で作製した^<99m>Tc標識抗体は従来法に比べて,腫瘍と血液との放射能集積比を有意に向上することを認めた.本研究成果を基礎として,現在HYNIC構造に刷子縁膜酵素の基質を導入した新規標識試薬の開発を進めている.
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