ラット尾動脈内皮細胞におけるATP遊離機構と機械的刺激との関連性について、今年度は画像解析装置およびATP可視化技術を用いて、以下の点を明らかにした。 (1)ラット尾動脈初代培養内皮細胞において、低浸透圧刺激によるプリン物質放出量の著明な増加とともに、[Ca^<2+>]iレベルの有意な上昇が観察された。 (2)低浸透圧刺激による[Ca^<2+>]iレベルの上昇は、P2Y_1受容体拮抗薬であるPPADS及びPhospholipase C inhibitorであるU-73122により一部ではあるが有意に抑制された。なお、PPADS及びU-73122自身の影響は認められなかった。 (3)P2Y_1受容体作動薬である2-mSATPにより[Ca^<2+>]iレベルの上昇が観察され、この上昇はPPADS及びU-73122により有意に抑制された。 (4)低浸透圧刺激により内皮細胞面積の増大(cell swelling)が観察された。さらに、その増大はPPADSにより増強され、2-mSATPにより抑制された。 以上の結果より、ラット尾動脈内皮細胞において、低浸透圧刺激によりATPが遊離されるとともに[Ca^<2+>]iレベルが上昇する事が明らかになった。この[Ca^<2+>]iレベルの上昇がU-73122およびPPADSにより有意に抑制されたこと、また2-mSATPにより著明な[Ca^<2+>]iレベルの上昇が観察されたことなどから、低浸透圧刺激による[Ca^<2+>]iレベルの上昇は、P2Y受容体の中でもP2Y_1受容体を介した反応であることが示唆された。さらに、低浸透圧刺激による細胞面積の増大(cell swelling)がPPADSにより増強され、2-mSATPにより抑制されたことから、低浸透圧刺激に伴って増大した内皮細胞容積の修復(減少)過程にはP2Y_1受容体を介した[Ca^<2+>]iレベルの上昇が、関与している可能性が示された。
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