これまでに確立したGT1-7細胞の細胞内カルシウム流入を高感度ビデオカメラを用いる細胞内カルシウムの同時多点計測システムを用いて、カルシウム流入の時間的・空間的パターンの解析を行った結果、様々なアナログの中でβ1-40、β1-42、β25-35などの神経毒性を持ち、βシート構造を形成するペプチドは細胞内カルシウム流入を引き起こしたが、毒性を持たないβ1-28や対照として用いた逆シークエンスペプチドであるβ40-1では変化は見られなかった。このような細胞内カルシウム流入は、ハチ毒ペプチドのメリチンやカエル皮膚由来の抗菌性ペプチド、マガイニン2などの細胞膜にpore形成能を持つペプチドでも同様に生じたことから、GT1-7細胞の細胞内カルシウム流入は細胞膜においてペプチドが会合したチャネルに由来することが示唆された。さらに、βアミロイド蛋白によって生じる細胞内カルシウム濃度の増加量、反応を示す細胞の割合は濃度依存的に増加し、一方、反応が生じるまでの潜時は濃度依存的に減少することも判明した。次に、膜表面荷電や流動性を変化させる様々な薬物、コレステロール誘導体、イソフラボン誘導体などをGT1-7細胞に前投与した後、βアミロイド蛋白を投与して細胞内カルシウム流入を観察した。その結果、女性ホルモン17β-estradio1、植物エストロジェンであるphloretin、やcholesterolなどによってβアミロイドチャネルの形成は阻害された。アルツハイマー病は女性に多いことなどから、治療としてホルモン補充療法が用いられているが、そのメカニズムは未だ不明の点が多く、今回の結果からestradio1等のステロイド化合物が膜に侵入して膜に対するペプチドのaffinityを変化させることによって作用させる可能性が示唆された。
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