アミロイド形成ペプチドの細胞膜侵入と毒性発現に及ぼす細胞膜表面脂質の影響

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11672224
• 研究機関: (財)東京都医学研究機構
• 研究代表者: 川原 正博 財団法人東京都医学研究機構, 東京都神経科学総合研究所, 主事研究員 (40224828)
• キーワード: アルツハイマー病 / 細胞内カルシウム変動 / GT1-7細胞 / 膜脂質 / 性ホルモン / プリオン病 / イオンチャネル / 神経ステロイド

研究概要

アルツハイマー病の原因蛋白であるβアミロイド蛋白、プリオン病関連蛋白であるプリオン蛋白の断片ペプチド、2型糖尿病で膵臓に蓄積するアミリンなどのペプチドは、いずれもβシート構造をとるアミロイド繊維を形成する。これらのアミロイド形成ペプチドが、GT1-7細胞(不死化視床下部神経細胞)の細胞内カルシウム流入を引き起こすことを、高感度ビデオカメラを用いる細胞内カルシウムの同時多点計測システムを用いて明らかにした。また、アミロイド形成ペプチドによって引き起こされるカルシウム流入の時間的・空間的パターンの定量的解析を行った。
次に、膜表面脂質とペプチド結合との関連を探るために、膜表面荷電や流動性を変化させる様々な薬物をGT1-7細胞に前投与した後、βアミロイド蛋白を投与して細胞内カルシウム流入を観察した。その結果、膜表面荷電を減少させ静電相互作用を減少させるphloretinによってβアミロイドチャネルの形成は顕著に抑制された。また女性ホルモン17β-estradiolによってもアミロイドチャネル形成は阻害された。さらに、神経ステロイドの1種であるDHEAによっても顕著な抑制が観察された。また、βアミロイド蛋白を培養神経細胞に投与した後、抗βアミロイド抗体によって染色し、レーザー共焦点顕微鏡によって観察したところ、一部の神経細胞の突起状に沈着していることが判明した。アルツハイマー病は女性に多いことなどから、治療としてホルモン補充療法が用いられているが、そのメカニズムは未だ不明の点が多い。今回の結果からestradiol等の内在性のステロイド化合物が膜に侵入して膜に対するペプチドのaffinityを変化させることによってアルツハイマー病の発症に関与する可能性が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] KAWAHARA M and KURODA Y.: "Molecular mechanism of neurodegeneration induced by Alzheimer's β-amyloid protein : Channel formation and disruption of calcium homeostasis"Brain Res.Bull. 53. 389-397 (2000)
• [文献書誌] KAWAHARA M and KURODA Y.: "Intracellular calcium changes in neuronal cells induced by Alzheimer's beta-amyloid protein are blocked by estradiol and"Molecular and Cellular Neurobiology. in press (2001)
• [文献書誌] KAWAHARA M: "Alzheimer's beta-amyloid, human islet amylin and prion protein tragment evoke intracellular free-calcium elevations by a common mechanism in a hypothalamic GnRH neuronal cell-line"J.Biol.Chem.. 275. 14077-83 (2000)
• [文献書誌] 川原正博: "βアミロイドの多量体化と神経毒性メカニズム"Molecular Medicine. 37. 1016-1028 (2000)
• [文献書誌] KAWAHARA M: "Neurotoxicity of aluminum on primary cultured neurons,"Brain Res.Bull. (in press). (2001)
• [文献書誌] 川原正博: "微量元素と老人性痴呆"JJPEN. 2・2. 65-72 (2000)
• [文献書誌] 川原正博,黒田洋一郎: "アルツハイマー病 病因病態アルミニウム及びその他の金属 臨床精神医学講座S9巻"中山書店. 415-427 (2000)