アミノ酸の一つであるプロリンは生体内で亜硝酸と反応してニトロソプロリン(NPRO)を生成することが知られ、正常人の尿中からも検出されている。NPROは代謝酵素による活性化を受けないため、他の発癌性ニトロサミン類とは異なり、非発癌性かつ非変異原性とされてきた。しかし、我々はニトロソジメチルアミンなどのニトロサミン類が太陽光や近紫外光照射により活性化されることを見いだしている。そこで本研究では、NPROが近紫外光により活性化され、変異原性・DNA傷害性を示すようになるのではないかと考え、研究した。その結果、NPROは近紫外光照射によりサルモネラ菌TA1535に突然変異を誘起することが分かった。さらに、ファージM13mp2DNAを用いた研究により、誘起する突然変異スペクトラムを調べたところ、GCからCGへのトランスバージョンを主に引き起すことが分かった。さらに、NPRO存在下、近紫外光照射した二本鎖スーパーコイル状DNAに一本鎖切断が生じることが分かった。DNA切断はNPRO濃度、近紫外光照射時間の増加に伴って用量依存的に増加した。また、太陽光照射によっても、DNA切断が見られた。さらに、NPRO+近紫外光処理した子牛胸腺DNAにおける酸化的DNA損傷を検出したところ、誤対合により突然変異の原因となることが知られている酸化的損傷塩基8-ハイドロキシグアニン及び5-ハイドロキシシトシンが生じていた。従って、NPROは内在性遺伝子損傷性物質の可能性があることが分かった。
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