平成11年度においては、3T3-L1細胞の脂肪細胞分化におけるTCDDの阻害作用機序を明らかにする目的で脂肪細胞分化におけるいくつかの制御因子に対するTCDDの影響およびAhレセプター(AhR)の関与を検討した。その結果TCDDは脂肪細胞分化のみならずその過程におけるclonal expansionをも阻害した。さらに一連のTCDDの作用におけるAhRの関与を検討する目的で、AhRを過剰に発現した細胞クローンおよびアンチセンスRNAを用いてAhR量を減少させた細胞クローンを作成した。これら細胞クローンの細胞増殖速度を測定したところ、AhR量に比例して増殖の遅れが観察され、先に示されたTCDDによるclonal expansionの阻害がAhRを介したものであることが示唆された。さらにこれら細胞クローンの脂肪細胞への分化能を検討したところ、AhR量に依存して分化の程度は減少した。すなわち、AhRを過剰に発現した細胞はコントロール細胞に比較して低い分化能を示し、AhR量を減少させた細胞クローンではコントロール細胞に比較して高い分化能を示した。また、AhR過剰発現細胞においては脂肪細胞分化に重要な役割を果たす転写因子であるC/EBPαおよびPPARγ2の発現の低下が認められ、その一方でAhR量を減少させた細胞においてはこれら因子の発現の増加が認められた。以上の結果よりTCDDの脂肪細胞分化阻害作用はAhRを介してのclonal expansionの阻害および脂肪細胞分化特異的な転写因子の発現の抑制によることが示唆された。
|